宝塚歌劇団に見るジョブ型雇用のひとつの形

f:id:mirko-san:20210206230828p:plain 実咲 凜音・妃海 風ジョイントディナーショー【宝塚ホテル】阪急阪神第一ホテルグループ

宝塚OGの実咲凛音(みりおん)と妃海風(ふうちゃん)が共同でディナーショーを開催するというニュースを目にしました。
2人とも宝塚歌劇団95期生の同期なのですけど、退団してからの所属事務所は違うのにこうしてディナーショーをするというのは、本当に仲が良いのだと思います。ビジネス仲良しではないんだな…と感慨深い気持ちです。

ジョブ型雇用への気持ち

私の印象の話でしかないのですが、最近の雇用まわりのトレンドとして

  • ジョブ型雇用に切り替えて、無駄の多いメンバーシップ型雇用は廃止しよう
  • 成果報酬型とし、年功序列で給与を決めるのはやめよう

というような話があると思っています。

これらについて私は深い洞察も共感もなくて、大企業新卒採用されたこともないし、年功序列な給与体系で働いたこともないので、想像やインターネットでぼんやりと聞く噂話への感想として
「メンバーシップ雇用って毎日上司と飲み歩かないといけないっぽい空気があったりだとか、政治的しがらみが多そうだよなあ」
とか
「努力しても給与に反映されないって、モチベーション上がらないだろうなあ」
とか思っていて、基本的には昨今のトレンドには賛成なのですが、同時に
「明確な成果物があるわけじゃない仕事の人たちもいるだろうし、その人たちも常に数値化された成果を求められるって辛いだろうな」
とか
「長い期間雇用してもらえるって前提で会社に尽くしてきた人達もいるだろうし、そういう気持ちが会社を支えてる面は確実にあるのでは」
とも思っていて、昨今のトレンドに懐疑的な気持ちもあるのです。

そんなことを思いながら日々を過ごしていて、ディナーショーの報せを聞き、ふと思いました。宝塚って、興味深い雇用なんじゃない?と。

タカラジェンヌの労働環境

  • 採用

宝塚歌劇団の団員(とはファンは呼ばずに「生徒」と言うのですが)に中途採用はありません。宝塚歌劇団の団員は全員宝塚音楽学校出身ですし、宝塚音楽学校の受験資格は中卒から高卒までの期間しかありません。
いうなれば、新卒一括採用なのです。

  • 仕事環境

上下関係が厳しいことで有名です。雑誌などの発言でもお互いが何期生かどうかは生徒さん自身すごく気にされている様子です。
また、日々プレッシャーのある毎日であることが予想されます。毎公演違う役をし、演出家に厳しい指導をされ、日々向上を求められる厳しい環境であると思います。 また、公演期間中は休演日は基本的に週に1日しかなく、そんな日々が公演期間の約2か月間(宝塚で1か月、東京で1か月)続きます。労働条件だけ聞くと、非常にハードな職場だと思います。

  • 教育体制

基本的にOJTで、公演に参加し、与えられたポジションでの仕事をこなしていくなかでスキルを磨いていき、成長していくというのが基本的な教育だと思います。
公演では端役から始まるとはいえ、毎公演観客の前で失敗できないストレスがある「ぶっつけ本番」のOJTであることを思うと、大変な職場だと思います。
また、伺うところによると、劇団でのレッスン以外にも個人で先生に師事し、仕事外でもスキルアップをすることもあるみたいです。

ただ、宝塚には毎公演「新人公演」というものが存在しています。
これはその組で公演中の公演と同じ公演を 入団1 - 7年目までの団員のみ で行うという公演です。(地方公演は除く。一部演出変更があることも)
新人公演は通常公演よりはチケットの値段が安くなりますし、観客も新人公演であることを承知して観に来ていますので、比較的心理安全性の低い挑戦の場であると思います。そのような場を劇団が用意していることは、非常に興味深いことだと思います。

ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用は択一的なものではない気がする

こう見ていくと、宝塚歌劇団の雇用はジョブ型雇用の「専門スキルをもつ人材をその成果により評価する」という側面もありつつ、メンバーシップ型雇用と一緒に語られがちな「厳しい上下関係」「長期的人材の育成」という側面もあるなと感じました。
先に述べた

  • ジョブ型雇用に切り替えて、無駄の多いメンバーシップ型雇用は廃止しよう
  • 成果報酬型とし、年功序列で給与を決めるのはやめよう

というような観点についても

  • たぶん「組」という狭く流動性の低いコミュニティ単位で仕事しているので、人間関係のコストはおそらくある
  • 入団年数に関わらず技術があると新人公演主演やトップスターに抜擢されることがある

という、ジョブ型雇用ともメンバーシップ型雇用ともいえない、独自の雇用を洗練させているなと私は感じました。

そして、ジョブ型雇用でも、敵対したり無関心になるわけではなく、退団後でもみりおんとふうちゃんが一緒にディナーショーをするような良好な関係を築けていることはとても素敵なことだと思いました。
個人的見解ではジョブ型雇用って他人について「評価を競いあうライバル」として敵対するか、「分担された仕事をこなす同僚」といったふうに無関心になるかのどちらかな気がしているからです。
このような関係になれるのはメンバーシップ型雇用的空気感が少なからず必要なのではと思います。

まとめ

私は人事のプロではないですし、明確に「宝塚歌劇団の雇用のここに学ぶべき」みたいなことはスパッとは言えなかったのですが、雇用の観点から見ても宝塚ってやっぱり独特で興味深いなと思いましたし、世の中にはいろんな雇用があるんだなと思ってもらえたら面白いかなと思いこの記事を書きました。

宝塚歌劇は100年以上続く歴史ある大企業ですし、その独自の雇用が興味深くないわけはないと思います。学ぶべきところもあるのではないでしょうか。以上。